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プロローグ

成層圏よりはるか上空。無数のデブリの中に、ひと際大きな欠片が漂っている。かつて『漆黒の星』と呼ばれたその残骸は、激しい戦いの残滓であり、志半ばに倒れた研究者の深い怨念でもあった。すでに機能するものはないと思われていた残骸の中に、その『意識』はあった。帰らぬ主が与えるはずであった未完成の身体を自身で組立てながら、『意識』は感じていた。何かが呼んでいる。見下ろす巨大な天体。地球と呼ばれるその惑星に、『意識』は惹きつけられた。あそこには何かがある。自分には足りない何かが。『意識』は無数の分身を作ると、それらを放出した。『漆黒の星』の残骸から、幾筋もの光が地球に向かって伸びて行く。それはさながら魂を掴み取ろうとする亡者のしわがれた腕のようであった。

荒れた大地を一騎の軍馬が進んでゆく。
馬も、その背に跨がる武人も、ひと目で只者ではない事がわかる。
限りない力を欲し、底知れぬ野心とともに、あまたの戦場を駆けて来た。
海を越え、多くの傑物と刃を交え、そして多くの友情を知った。
それでもなお、胸の内に滾る熱い炎は消えてはいない。消えてはいないどころか、それはより青く、静かに、しかし着実に、その熱を増していた。
馬の足を止め、星空に想いを巡らせる。
自分はなぜこれ程、力を求めるようになったのか。
時には闇に飲まれ、進むべき道を見失いそうにもなった。
しかしその根源ともいえる出来事は決して忘れ去られる事無く、つねに記憶の片隅に残っている。
そうだ。
あの出会いこそがすべての原点。
この胸の炎が生まれた瞬間であった。
遠い昔の光景が朧げな形となって脳裏に蘇る。
その時であった。
すべての考えを打ち消すかのように、轟音が辺りを揺らす。
「!?」
他の星々よりはるかに明るい何かが天空を切り裂くように光の筋を描く。
禍々しいその輝きは、災いの報せに違いない。
それは再び始まるであろう新たな戦いを予感させた。
そして同時に、この身の内に燃え盛る炎に一層の熱量を増す。
戦慄とともに、湧き上がるそれは、逃れられぬ己の性。
「で、あるか」
穏やかでありながらも力強い声が、夜の荒野を馳せた。

(つづく)

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